2022年9月21日(水)
鳴子温泉の中心部には鳴子火山があり、「続日本後紀」によると837年に噴火をしたと
記録が残っています。
「玉造塞の温泉石神、雷響き振い、昼夜止まず。温泉河に流れてその色漿の如し。
加うるに以って山焼け谷塞がり、石崩れ木を折る。更に新沼を作る。沸声雷の如し。
此の如き奇怪、勝げて計うべからず。よって国司に仰して災異を鎮守し夷狄を教致
せしむ。」
<訳>
玉造塞(柵)配下の温泉石神が雷のごとく鳴り震動して、昼夜やむことなく、温泉が
川に流れ、藍のようになり、山は焼け谷は埋まり、その地鳴りは雷のごとくで、奇怪
はたとえようもないので、これをあつくいわいしずめる。
この火山が噴火する際の鳴動が「鳴声(なるこえ)」と呼ばれ、現在の鳴子という
地名の由来になったという説もあります。
この鳴子火山はまさに鳴子温泉の温泉を作っている熱源です。
噴火の後は「潟沼」というエメラルドグリーン色をしたカルデラ湖が残り、現在も
訪れる人を楽しませています。
この「潟沼」には昔から龍神伝説があり、小さな龍神の祠が山の中腹に置かれています。
潟沼を訪れた時、たまに龍神の祠まで行ってみることもありますが、お供え物が
置いてあったりと今でも信仰を集めている様子がうかがえます。
このたび、いろんなご縁が重なり、この鳴子温泉の中心ともいえる「潟沼」の古層に
棲む龍神様をお祝いしようという企画が生まれました。
では、なぜに龍神様のお祝いになったかというと、私自身深い理由は見つからないの
ですが「ずっと気になる存在だった」ということに尽きるかと思います。
だれかが祠をたて、鳥居を構え、だれかが信仰している存在。
見た目は静かな沼ですが、底知れぬエネルギーを蓄えていると思われる潟沼に、昔の
人が人智を越えた存在を感じ崇めたことは想像に難くありません。
東日本大震災以降、10年やそこらの間にコロナ禍や戦争、異常な円安、物価高など
社会には次々と動乱が起きています。隣国ではミサイルが日常的に発射される中、
大国をからんだ世界のパワーバランスの崩れが、いつ日本に影響を及ぼすかもしれません。
ある時、そんな世相に背を向けるように、訪れた潟沼。
龍神様の祠まで息を切らして登り、手を合わせようとして赤松の御神木を見上げた
私ははっとしました。
祠の脇にそびえていた御神木が枯れていたのです。
なぜ枯れてしまったのかはわかりませんが樹齢100年は越えている大きな赤松です。
祠に登る入り口にある鳥居も朽ち果てており、変わりゆく時代の中で、何かをお祀り
続けてゆくことの難しさを感ぜずにはおれませんでした。
そうした状況の中、潟沼の龍神様にとって本当に私どもの企てることが喜んでいただ
けるかどうかはわかりませんでしたが、少なくともこの鳴子温泉で温泉の恵みにおいて
生かされていることへの感謝だけはこの機会にお伝えしたいと思いました。
今回の龍神祭のメンバーは地元の私達に加え、龍笛と舞いを行う「香風舎」の中村香奈子氏、
宇佐見仁氏、現代美術家のTHEO HAZE氏、宝珠悉皆師の那須勲氏など多彩な顔触れが揃いました。
全て、友人である平野恵子さんのご縁から集まった方々で、それぞれ素晴らしい感性の持ち主でした。
そしてこのメンバーでどのような龍神祭が行われるのか、胸をわくわくさせながらその時間を待ちます。
龍神祭の早朝、私は宿の玄関のカーテンを開けようとした時に強い光を感じました。
なんだろうと思い、窓越しに空を眺めると金色の龍のような雲が立ち上っていました。
まるで、今日のお祭りを空から祝ってくれているようです。
そして向かった潟沼の空にも龍のような雲が。
9時30分の開始時間に合わせ鳴子温泉神社の芦立宮司さんが祭壇を飾ってくれています。
緑色を映す潟沼に、凛とした祭壇がひとつ映えます。祭壇には、この日のために作られた
宝珠悉皆師の那須勲氏の作品「夢のあとさき」が納められています。
フレアインターナショナルの佐藤恵里さんが企画した東京からのツアーの方々はじめ、
続々と参加者が潟沼に集まってきました。
時間となり、厳かに芦立宮司さんの祝詞奏上から神事が始まりました。祝詞奏上が終わると
今度は中村香奈子氏の龍笛、THEO HAZE氏の三味線の演奏の中、宇佐美仁氏の舞いの
場面へと移ってゆきます。
澄んだ龍笛の音色が、潟沼に響き渡ります。その微細な響きは鏡のような潟沼の水面に
目に見えないさざ波をたてるようです。その笛の調べに合わせるように、宇佐見氏の
舞いがはじまるとどこからともなく風が吹いてきます。潟沼の龍が呼応しているかのごとく。
潟沼の自然と参加者が一体となった奉納演奏はまるで、どこか遠い世界へつながるようで
あり、837年の大噴火でできた潟沼において1185年目に行われたこの奉納演奏は時空をこえて
悠久なる存在へと私達をいざないました。
この奉納演奏の後、参加者達は鳴子もりたびの会の齋藤理事のガイドで昨年新しくできた、
潟沼登山道を歩き、潟沼のお鉢巡りという新たな祈りの道から潟沼を俯瞰しました。
この登山道は今後一般の方にも潟沼を知ってもらえる良き道になるよう願っています。
潟沼での午前の部のお祭りが終わり、夕刻から場所を旅館大沼の山荘「母里乃館」に場所を移し
「直会」のはじまりです。「直会」では、龍神様に潟沼から降りてきていただき、神人響宴
で龍神様と一緒に食事や演奏を楽しむ趣向となっています。
「直会」では中村香奈子氏の排簫と宇佐見仁氏の和琴にTHEO HAZE氏の三味線をからむような
演奏が行われました。合間には珍しい和楽器の説明なども伺うことができ、ためになりました。
会場となった山荘には、THEO HAZE氏の作品やこの龍神祭のために宝珠悉皆師の那須勲氏によって
作られた「夢のあとさき」も改めて披露されその緻密な技巧がつめこまれた作品に参加者は魅了されていました。
那須勲さんは、作品を作る際はまずその作品の設計図となる一遍の詩を作るところから
はじまるそうです。今回の龍神祭に向けて作られた「夢のあとさき」の詩が以下です。
永き世の他界の香りに守られし
苔むした夢見の時代うち捨てて
記憶の沼に湧く理不尽な衝動呼び覚ます
孤独の内に咲くかつて薫った大地の滾りに
呼びかけたのはゆわいの響き
ゆきすきの朧の狭間けむらせて
吾が龍燐の光 あとさきの道標にす
食事を担当してくれたのが、NPO法人トージバの神澤さんや、かおるちゃん、コーダイ君、
パペット劇にメチャメチャはまっているうのちゃんなど、所謂「あるもんで族」です。
普段は、千葉県の神崎町を拠点にして、あるもので自由に楽しく生きるライフスタイルを
実践しています。
彼らの料理はビーガンの中でも最も厳格なオリエンタルビーガン。払下げの消防車に積載
したアースオーブンで作るジューシーに焼きあがった地元の野菜やビーガンピザはまさに
絶品で参加者一同大いに舌鼓をうちました。
「あるもんで族」は古布をつかったチクチク仕事も活動の一環で行っており、刺し子の
作品の展示やパペット人形劇などの上演などでも参加者を楽しませてくれました。
みなさん、ご参加いただきありがとうございました。今宵は楽しき宴でした。
今回、ご縁からはじまって「潟沼」誕生以来1185年目に龍神祭を行うことができました。
きっかけを作ってくださった平野恵子さんはじめ、アーティストの皆様、東北経済産業局様、
素晴らしい龍神祭のPVを創ってくれた、映像クリエーターの中村創氏、鳴子もりたびの会の
齋藤理さん。そして関わってくださった全ての方に感謝をささげます。
5月に鳴子にはじめて訪れた企画メンバーたち。9月にこのようなお祭りができ心から感謝しています。
これからの1000年も鳴子の温泉が湧き続け、多くの人々を癒してくれますように。
潟沼龍神祭2022のPVはこちらから by中村創