いくつもの時代をくぐりぬけ脈々と受け継がれてきた日本の保養文化である「湯治」、そしてその場としての「湯治場」。
「湯治」「湯治場」を老若男女を問わずに気軽に利用していただき、心身の健康作りに役立てていただきたい。そんな湯治を広めるべく、宮城県の東鳴子温泉にある旅館大沼も日々取り組んでいます。
しかしながら、残念なことにまだまだ多くの人々にとってこの「湯治」というものは、一部の人々が行う独特の温泉滞在スタイルであると思われていることも事実です。
そこで、年齢や性別を問わず、今の時代に合わせて、この湯治・湯治場を1人でも多くの人々に活用してもらうためにおすすめしているのが「現代湯治」。
この記事では本来の文脈での「湯治」、そして現代風に受け入れられるように進化した「現代湯治」について紹介することで、湯治を良く知らない方でも一通り理解できる構成にしております!ぜひご一読ください。
そもそも湯治とは何か
「湯治」は、日本人が昔からお湯に寄り添って心身を癒してきた保養文化です。
主に農業や漁業を営む方々が仕事の合間に2-3週間、温泉地に滞在して日々の疲れをとり、仕事に戻っていました。湯治を提供する場としての「湯治宿」は、かなり数が少なくなっていますが現在も全国各地に存在しています。
どの湯治宿も良い温泉と環境を備えたところが多いです。
この記事をお読みの方にとって湯治とは、温泉でおじいさん、おばあさんが仲良く炊事をする場面や、温泉で病いを治すために一心に入浴する姿を思い浮かべる方もあるかもしれません。
いずれも、昔から引き継がれてきた伝統的な湯治の場面ですが湯治の基本は保養です。豊かな自然環境の温泉地に滞在し、温泉に浸かりながら疲れをとったり、心身の不調を癒します。「治す」という文字がはいっていますが、必ずしも病気の方だけがするというものではありません。現代風に言えば、温泉でゆったりして心身を整えるということだと思います。
古来の湯治を現代に活かすためには
しかし、そんな古来からある「湯治」のスタイルは忙しい時代に合わなくなってきました。
まずは時間の問題があります。現代人の多くは、仕事の都合などもあり、なかなか1-2週間の休みを取ることは難しいです。2泊とるのも大変という方も多いでしょう。
昔は、数世代や親戚も含めて大人数で湯治に来て自炊で滞在していました。現代は少子化や核家族化が進み、そもそも大人数で移動することはまれなことになっています。みんな忙しいので、人と予定を合わせることも難しいです。
ただ変わらない点としては、日常から温泉地に場所を移して滞在していく行為ということ。非日常空間で、ゆったりすること自体、温泉の効能に勝るとも劣らない効果を発揮してくれます。(転地効果)
現代湯治は2泊3日から。自炊ではなくシンプルな食事付きで、一人でも出かけられる。
当館では「現代湯治」をそんな今の時代にも受け入れられるようなスタイルで提唱しています。
今の時代に合わせた現代湯治とは何か
我々、旅館大沼では、現代湯治を「日常を離れ、一定期間温泉地に滞在しそれぞれのライフスタイルに合わせて温泉とその場(地域)を活用し心身の再生を図ったりおもいを叶えてゆくこと。」と考えています。
以下は私どもなりに「観光」と「現代湯治」の特徴を比較してみたものです。
観光 | 現代湯治 |
物見遊山 | 地域参加 |
1泊型 | 滞在型 |
多食 | 少食 |
団体型 | おひとり様・小グループ |
1泊2食付 | 多様な宿泊スタイル |
温泉はサービス要素の一つ | 温泉がメイン要素 |
食事や温泉を楽しむ | 心身のバランスを調整する |
充電 | 放電 |
旅行 | ライフスタイル |
サービス享受 | 企画参加 |
消費 | 生産(命の力) |
利用 | 共創 |
非日常 | 異日常 |
近頃は「スローライフ」などと提唱されていますが、現代における時間の流れはあまりにも早く、もはや人間がついてゆけないぎりぎりのところまできています。
いまこそ、豊かな自然環境の温泉地でゆったりと「湯治」をして自分の体内リズムを整え、免疫力を高め、本来の自分を取り戻す必要があると思います。
また、ゆったりした時間の中で、普段忙しくてできなかった自己との対話を通じ、もう一度自分を振り返るのもよいかもしれません。もちろん実際に心身のトラブルをお持ちの方は、自然の恵みである温泉の力で治癒に取り組むことも可能です。
現代湯治での過ごし方
日常生活では人間関係や仕事関係、家庭環境など影響を受ける事柄が多数あります。
だからこそたまに、そうした関係性から離れ、日常と異なる環境でリラックスして過ごす必要があります。
会社員として忙しい日々を送っている方や、働きすぎでメンタルに不安を抱える方にもおすすめです。
こんな忙しい時代だからこそ、現代湯治で「何もしない」ことを味わっていただきたいと思います。
あふれる情報から離れ「何もしない」ことを選択すると、自分の外側に向いていた心のベクトルが自然に
自分の内側に向かいます。また生き方への俯瞰も生まれるかもしれません。
情報にあふれた現代では、滞在中のデジタルデトクスを意識することも大事です。
はじめての湯治に挑戦してみましょう
まだまだ書き足らない部分もありますが、文章だけでは決してわからないのが、この湯治の世界です。
旅館大沼では、はじめて湯治を体験される方も多数いらっしゃいますが、やってみて初めてわかったという方がほとんどです。
ここまで読み進められて、もし現代湯治に興味を持たれたなら、難しいことは考えずに、ただのんびり2泊3日過ごしてみようということで良いと思います。
120年こんこんと湧き出る、木の香りのする柔らかな温泉でお越しをお待ちしております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。