東鳴子温泉を見下ろす越戸山の山頂には出羽三山の奥の院「湯殿山神社」の分社が
古くから祀られていて、鳴子温泉を守ってくれています。

私が宿を継ぐために東鳴子帰って来た時、鳴子湯殿山講の会計をしていた隣の宿の主人
からお役を引き継ぎ早40年近くになります。当館も含め、当時の宿屋の主人たちはほとんど
亡くなってしまい、今では私がこの鳴子湯殿山講の全てをまかされています。
鳴子温泉郷には、湯殿山の祠が様々な場所に建てられていて、出羽三山の修験信仰とこの地
が深く結びついていたことをしめしています。
湯殿山はその名の通り、湯がつく信仰の山です。
温泉を大切に生きてきた鳴子の人たちが、信仰してきたのもそうした流れがあると思います。
うちの祖父が源泉の保全のために、井戸の掘削をするとき、湯殿山神社のお湯を井戸にいれて
清めたという話を幼い頃に聞いたことがあります。
なかなか、お湯がうまく出てこなかった状態の時に湯殿山のお湯を井戸に入れたら、お湯が湧いて
きて驚いたという話を父がしていました。

毎年6月8日を鳴子湯殿山講の祭祀の日と決めて、鳴子温泉神社の宮司を招いてお祭りを
行なっています。
数年前までは、越戸山の山頂まで登ってお社で祭祀を行っていたのですが、神社までの山道が
荒れてしまい、登るのが困難になってしまいました。
今は、崇敬者の高齢化も進み、身近な場所で手を合わせられるようにと、町中の新しくできた東鳴子
集会場で祭祀を行っています。
祭祀は集会場でできますが、やはり山の上の神社も守ってゆかなければなりません。またほとんど
行く人がいないにしても、神社までの山道も整備しておく必要があります。
そこで、毎年東鳴子温泉の旅館後継者達で神社の清掃を行い、東鳴子温泉観光協会の力も借りて山道の
草刈り作業を行っています。
昨日は、その年に一度の神社清掃、山道整備の日でした。天気は予報通りあまり思わしくなく
朝から霧雨模様です。
雨降りの中で草刈機械を使うのは危険も伴いますし、やはり雨に濡れながらの作業は
やる人も気の進むものではありません。
早朝から空とにらめっこをしながら、集合の9:30まで決行か延期かと悩んでいましたが、
昼前くらいまでだったら霧雨もそんなに強くならないだろうという判断で決行に踏み切りました。
今回運が良かったのが、山道の途中まで植林作業のためにきれいに草がきれいに刈られていたことでした。
まるで雨の中で作業する私たちへの天からの応援です。
全員で6名の作業でしたが、雨もさほど強くなる前に草刈作業も終えることができ、ほっと一息をつき
ました。草刈機械の歯を新調したメンバーが熱く切れ味の違いについて語っていて話に花が咲きました。
これから梅雨時期を経て、勢いを増そうとしている草たちを刈り取ってしまう申し訳なささも感じつつ
、その刈った草から放たれるむせるほど濃厚な匂いは、草のほとばしる生命力を感じさせました。

刈り取った後の山道(参道)を振り返ってみると、きれいに刈られた道に湯殿山神社本宮に湧くような
霧が現れ、改めてこのお山も信仰の山なのだと思わせるのでした。
来月は、講員を連れて毎年行っている山形の湯殿山神社本宮参りに行ってきます。
またあの神聖な場で心身を清められることを心待ちに、日々を過ごしてまいります。